摩天楼Devil
私は、はいはい、と聞き流し、すっかり夜景に夢中になって――


「妃奈……」


「はいはい……わっ」


また聞き流そうとした女を、篤志さんは肩を持ち、強引に振り返らせた。


ぶぅ、と抗議する口を、彼は塞ぐ。


テリヤキソースの味が、二人の間を抜ける。


「……ん……夜景見てたのに……」


「もう、見せない」と、ちょっと拗ねた感じの男性。


私の頬を挟むようにして、自分と向き合うよう固定し、またキスをしてくる。


今度は長めで、私はまたふらふらした。


「息継ぎの仕方、教えたろ?」


「そんな上手くできないもん……」


「慣れろ」と、無責任なことを命じ、篤志さんは唇を塞ぐ。


嬉しかった。


夜景とキス。


ドキドキしたけど、あの恐怖はなかった。


――でも、あれ?……なんか……


彼はどんどん、こちらへ来る。


今にも倒されそうになるくらい、力強くなってく。


息継ぎどころじゃなくなる。


ソファーに置いた手に力をいれて支えてないと、本当に倒れ込みそうだった。


「んんっ……ん……っ?」


そんな圧迫されるようなくちづけが終わると、

こちらの疲労感や動揺にお構いなく、彼は私を抱き上げた。


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