摩天楼Devil
無言だった。


「篤志さん……?」と呼びかけても、返事はなく、


私は運ばれた。


リビングを出て、横手の部屋。


そこは――


篤志さんの匂いがした。


中央にあるベッドに、私は置かれた。


ここは寝室だ。


そう意識した瞬間、お風呂場の時の気分が帰ってきた。


「あ、あつ、あつしさ……待っ……」


止めに入ったが、さっきと同じ、強いくちづけをされる。


普段なら聞こえると恥ずかしくなる水音も、今はただ怖くさせる。

はぁ、と何とか息継ぎをする。


ややあって、本当に呼吸ができるようになったかと思えば、篤志さんの唇は、耳たぶへ。


「妃奈。好きだよ」


と、吐息混じりに呟く。


無意識に、ビクンと震えた。


聞きたかったセリフなのに、喜んでる余裕がない。


彼の唇は耳たぶへのキスの後、そのまま首筋に移動する。


ドキン、ドキン……と強い心臓の音。


篤志さんは気付かないのか、無視をしたなのか、分からないけど、
そのまま、くちづけを続ける。


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