摩天楼Devil
それが、鎖骨の下まで来たとき、器用に片手で、ブラウズのボタンを一つ、二つ、と外される。


キュッと私は、目と唇を閉めた。


――怖くない。怖くないもん……り、両想いなんだから……


好きな人だから……


必死に恐怖を押し殺す。


「バスローブなら簡単だったんだけど……」


彼は小さく笑う。


軽い冗談のつもりだったんだろう。


だけど、そんな彼も、私の身体を倒した瞬間、ハッとして止まった。


「妃奈……」


どんどん私の瞳から溢れる涙。


震えも大きくなる。


「……ッ……こ、こわ、い……こわい……」


まるで猫みたいに身体を丸めると、篤志さんは一度だけ頬に触れ、
すぐに手を引っ込めた。


それから、さっと一人でベッドを下りた。


私はずっと、視界を閉じていた。

ドアがガチャと閉まる音がした。

その時、ようやく起き上がった。


「あ、篤志さ――」


呼びたいのに、声が詰まった。


きっと、来てくれない。

もう、傍には――


「嫌われちゃった……」


私がガキだから。

レイさんと違って。


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