摩天楼Devil
私はそのティッシュを目で追っていた。


「……聞いているのか?妃奈」


「え? ああ、はい」


って、なんだっけ?

そうだ。キスしても落ちないのを使えって……って、えーと。


「ど、どういう意味?」


藤堂さんの指が、顎に触れる。


「次からは、俺には付かないグロスか口紅を使え、と言ったんだ」


「い、今のだって、本来付くわけないでしょ!」


「そうか……なら、試そう……」


また、彼は目を細め、ゆっくりと顔を近付けてきた。


「ち、ちょっと……さっきしたし、それに私は……す、好きな人と……」


「好きな奴がいるのか?」


唇が触れ合う寸前で、問われる。


視線がどうも、唇に行ってしまう。
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