摩天楼Devil
「あ、いえ。何でも……」


彼は普通で、拍子抜け。


ま、いっか。やるべきことをするべ。


「台所。お借りしますね」


「ああ、俺は風呂に入る」


まだ、入っていなかったらしい。


沸かし直すためか、温度調整のボタンを押し、彼は浴室に入る。


が、すぐに出てきた。


「……あ、タオルと着替え。ベッドの上に置いたままだ」


「抜けてるなぁ。藤堂さん」


レシピ本を読みながら、思わず呟いた。


「妃奈。名字で呼ぶのやめにしないか」


「え?……だめですか?」


じゃ、なんて呼べば?

曲がりなり、ってかなり曲がってますが、一応雇主さんだしな。


「……篤志でいい」


横柄に私をこき使う人の言うことにしたら意外で、え? と聞き返した。
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