摩天楼Devil
その言葉に胸が痛み、私は黙り込む。

篤志さんも特に喋らなかった。


でも、家が近付いた時、


「妃奈。ちょっと止まって」


また急な命令。


仕方なく、足を止めた。


周囲に誰もいないことを確認すると、


彼はまた、キスをした。


唇に――


優しかった。


そのくちづけの間、そっと抱き寄せてくれて、バカみたいに、それまでの苛立ちが和らいだ。


「……機嫌直したか?」


キスの後、篤志さんは平然と訊く。


「好きな人と、じゃないから、全然」


私は首を振った。


当然、嘘。

だけど、悔しいから。


「……行こう」


彼は急に手を引いた。

誰がどう見ても、不機嫌だった。
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