∮ファースト・ラブ∮ *sugary*【番外編】
そうこう考えていると、あっという間によく知っている5階建てマンションの前に立っていた。
自動ドアをくぐり、白と黒のモダンな玄関をカバーするかのような観葉植物がひとつ、自己主張するかのように存在している。
その光景を目の端でとらえながら、真っ直ぐ進んだ先にはエレベーターがある。
中へ入ると、静かな個室がぼくと手鞠ちゃんを包んだ。
静寂の中に響くのは手鞠ちゃんの絶望と化した嗚咽と泣き声だけ…………。
背中で泣いている彼女の声は、ぼくの良心を痛めつける。
早く……早く手鞠ちゃんを絶望から救ってあげなければならない。
悲しみに囚われている彼女の声を聞きながら、ぼくは4階のボタンを押した。
すると、ほどなくしてエレベーターのドアは閉まる。
チーン。
甲高い機械音が居たたまれないぼくの気持ちをなぐさめてくれるかのように、目的地に到着したことを知らせてくれた。
ドアが開くと、右手に足を向ける。
ほどなくして403というプレートが目に入った。
ドアの前に立ち、家の中に繋がる扉の鍵を空いている手でズボンのポケットから乱暴に取り出す。
鍵穴へと鍵を入れると……カチリ。と金属音が鳴った。
ドアノブを乱暴にひねり、開ける。
幸い、今日は看護師である母さんは家にいない。
たしか、今日は夜勤だと言っていた。
父さんも、今日は夜の10時まで残業をするとか言っていたな……。
と、いうことは……しばらくの間は誰にも邪魔されることなく、ふたりきりで居られるということだ。