あたしと君とソレ。
過去
過去の記憶
「ぼく、コレ大好き!」
静かな店内に意気揚々と発せられた声に思わず振り向く。
そこには頬をほんのりと赤く染め、嬉しそうに目を細める少年の姿があった。
その少年はカップに口を近づけフーフーと熱を冷ますと、ゆっくりとソレを喉に通し、そして再び笑顔でこう言う。
「美味しい!」
ほくほくとした表情でソレを喉に通す少年は
多分私と同い年位なのだろう。
お店のカウンターの端っこでその様子を食い入るように見つめていると、カタンという音と共に、甘い香りがあたしの鼻をくすぐった。
「ほれ、いちこの好きなやつだよ」
そう言って白髪かかった髪を一つに束ね上げ、優しい笑顔を浮かべる老人はあたしの前に甘い香りのソレを置いた。
「わぁーい!」
ここはあたしのおじいちゃんが経営する珈琲屋さん。
孫であるあたしは、いつも暇を持て余しては此処へきて、おじいちゃんの作ったソレを堪能していた。
猫舌なあたしに合わせて程よい温かさに調整されたソレをズズッと啜ると一瞬にして口の中に甘さが広がった。
…美味しい。
せかせかと働くおじいちゃんの様子を目で追いながら、あたしはソレをゆっくりと味わい、いつものように時間を潰していた。
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