マイスタイル
食べ終えた後、なんとなくテレビを二人で見ていたら、私はここに来た理由を思い出した。
「あのさ、昨日、チョコのお返し、大変だった?」
なにそれ
仂は訊き返してきた。
「だから、バレンタインにもらったチョコのお返し、したんでしょ?」
「してないけど?」
こいつ、なんて薄情なんだろ。それとも返せないくらいもらったとか。
「大学生になってチョコだとか誰も騒がねーぞ」
「あ、そう、なんだ」
あれ、てことは、もらってないの?
仂は吹き出してしばらくずっと笑っていた。
「うそうそ。もらうやつもいるよ。心配しなくても、おれももちろん渡される」
けど、受け取ってはないよ
テレビを消し、今度は真面目なカオをされて一瞬どきりとした。
「おれに渡す奴がいるってだけで男のプライドは守られるし? わざわざ受け取って返すのヤダし食べるの大変そうだし」
そうですか‥‥。女の敵とはこうゆう奴をいうのだ、きっと。
「だって、他の奴らのお返し買っておまえの買えなくなったら意味ねーじゃん。おれ、おまえのしかいらねーし」
仂は、乱暴な口調の中に、かすかな希望を乗せてきた。
なんだか、いつもと違う。
そう、まるで、あの、コンビニのときみたいな。
「あの、ね、マシュマロ‥‥」
何て言ったらいいのかわからなくて、必死に言葉を探す。
「ホワイトデーにマシュマロを‥‥‥」
じっと私を見て待っている仂。
私は立ち上がった。
「やっぱり帰る!」
すたすたと歩いて掛けてあるコートに手が届きそうになったとき、私は襟を引っ張られて、仂を下敷きに倒れてしまった。
「ちょッ‥」
「おれがおばさんに怒られるだろ。今日はおとなしくしてろ」
なんだか引っ掛かる言い草。
それじゃまるで、ただお母さんを恐れているだけみたいじゃない。
私はその予防線みたいじゃない。
「ばか仂。もう知らない」
上体を起こすと突然、後ろから大きなものに包まれた。
「わかった? おれがおまえに、会いたくて来たわけじゃないって言われた気持ち」