マイスタイル
いい香りがして、机にカップが置かれる。
だけど、おれはそちらを見ずに、ひたすらレポートに勤しんでいた。
ベッドのきしむ音と、彼女がふぅっとココアを冷ます音、すする音がたまらなくて、気を紛らわせようとココアに手をのばす。
マシュマロ入りだった。
「急いでるの?」
「まあな」
「忙しいのに、突然来てごめんなさい」
「べつに」
「あの、怒ってる? さっき、」
あぁ、さっきのことを気にしてるのか。
「私が、頭突きしたから」
ブッ
おれは吹き出してしまった。
ココア飲み込んでてよかった。
まったく相変わらずおもしろい奴。
そこはフツー、私が拒絶したから怒ってるんでしょ、とかさ、もっと色気のあること言うだろ。
それが頭突きって‥。
「何笑ってんの」
「べつに」
「ねぇ、寝なきゃだめだよ」
「うるさいな。それ飲んだらさっさと寝ろよ」
「やだ。仂が寝るまで起きてる」
「お子さまは寝てろったら」
「ふーん。人のことお子さまとか言ってるけど、仂もかわいいとこあるよね。――この布団のなかに隠れてたこのぬいぐるみ、なーんだっ」
はっ!
おれは振り返って祥子の手にしているウサギを直視した。
祥子はにんまり笑ってウサギで遊んでいた。