マイスタイル
不運なことに、いつもは座れるはずが立つ羽目になって、もらったチョコを守るのに必死だった。
あの子も、今、別の車両で同じように揺られているんだろうか。
彼女は一年生のカラーだったから年下だ。
もうすぐ三年生を迎える私には、まだまだ眩しく思える。
この一年弱の高校生活で好きな人でもできたのかな。
その頃の私は、そうだ、文化祭がきっかけでできた好きな人を、ただ目で追い掛けるだけだった。
家の前に、私は不審な影を見た。
ちょっと身構えて近寄ると、無表情の仂(ロク)がいた。
「仂? 何してんのこんなとこで」
仂は私の幼なじみで、私が中学を卒業すると同時に大学に進学し、ちょっぴり遠くに引っ越したので最近ずっと会っていなかった。
「おれに渡すものない?」
「ない」
「なんだよ。去年も今年もさ。じゃぁその紙袋、何?」
と、貰ったチョコの入った紙袋に視線を移す。
「あんたのことだからたくさん貰ってるでしょ。そもそもあたし一つも買ってないからあげられないよ」
そういって小さな鉄格子を押して中に入る。
「本命に手作りをあげるだけなんだ? で、失恋?」
「相変わらず失礼ね! あたしが手作りするわけないでしょ。貰ったの」
「べつに意地はらなくてもいいけどさ」
「ていうかなんでここにいるのよ」
「おばさんに呼ばれたから、おまえが来てから入ろうと思って」
私は急いで門を閉めようとしたが、ときすでに遅し。
あいつは冷ややかな笑みで私に言った。
「おじゃまします」