cocoa 上
 ドキドキ。胸が高鳴る。
 中川先輩の隣を歩く私。私の歩くペースに合わせてくれる中川先輩。
 そんな些細な優しさに、逆に緊張する単純な私。
 あまり普段と変わらない格好の中川先輩。
 下はジャージに上はパーカー。耳にはイヤホン。

 緊張感のない普段の格好に様子。
 なんだか、緊張している私が馬鹿らしく感じた。


「腹減った。」


 突然立ち止まり呟く中川先輩。
 あ!そういえば!


「あの、先輩!」


 叫ぶ私を見て、中川先輩は無言になる。


「私、部員の皆さんにお弁当作ったんです!」


 鞄からお弁当を取り出す私。大きな大きなお弁当。
 中川先輩は一点どこか遠く見た後に私の方を見てきた。 


「…腹減ったから全部俺にくれよ」


「えっ!?」


 中川先輩は驚く私をよそにスタスタと会場から遠く離れた小さい公園まで歩いた。
 私も黙々と後を追い、ベンチに腰掛ける中川先輩の隣に座り込んだ。
 中川先輩は私に手を差し伸べ


「弁当。」


「あ!はい」


 急いでお弁当を渡す私。中川先輩はゆっくりとお弁当箱の蓋を開けた。
 無言の中川先輩。目に映っているのはたくさんのおかずやおにぎり。
 息を飲む私。手に変な汗ができる。

 そして、ゆっくりと中川先輩はおにぎりを手に取り
 右手で箸を掴んで玉子焼きと一緒に口に頬張った。
 中川先輩は黙々とお弁当の中身を食べ始める。

 おいしいかな?まずかったらどうしよう。
 お口に合わなかったらどうしよう。
 変な不安が募る。すると、中川先輩は急に私の方を見てきた。


「悪かった…お前もお腹空いてるよな。ほら、食えよ」


 私に別の箸を渡してきた。


「あ、ありがとうございます」


 頭を下げて、箸を握る私に
 中川先輩はおにぎりとおかずの入った
 お弁当箱をこちらに向けてきた。
 なんだか気持ちが落ち着いてきた。
 中川先輩と2人でのお弁当。
 ほんわりした気分になった。
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