cocoa 上


「…桃!」


 ゆっくりと顔を上げる桃の顔は、暗かった。目が腫れていた。
 泣きはらした表情を浮かべて私を見て下を向いた桃。


「どうしたの?何かあったの?」


 桃の隣のブランコに乗り、私は桃の顔を覗き込んだ。
 桃は何か言いたそうだったが黙って下を向いていた。
 数分後。桃はやっと口を動かした。


「…こうちゃんと、喧嘩したんだ…」


 袖で涙を拭く桃。何で?そう聞く私に桃は立ち上がった。


「何かもかも、全部優愛のせいじゃん!」


 涙を流しながら下を向いて叫ぶ桃。
 拳を強く、そして震えながら握っていた。私は、桃がどうして
 そんな事を言ったか後々知ることになった。
 桃の感情が暴走した。口から桃の感情がこぼれた。


「こうちゃんが怪我したのは、優愛のせいなんでしょ!?優愛のせいで、試合でまた悪化させるような事になったんでしょ!?何もかも優愛のせいじゃん!」


 私を見て叫ぶ桃。ムカッときて私も立ち上がった。


「確かに私のせいかもしれない…。だけど、何でそんな事桃に言われなきゃいけないわけ!?」


 言い返す私に戸惑いも見せない桃。桃は本気だった。


「そんな事?ふざけないで!怪我して次の試合に出れなくなったんだからね!それでも、そんな事って言えるの!?」


「私が言ってるのは、桃には関係ないって言ってんの!」


 私が桃よりも大きい声で叫ぶと桃は急に静かになった。
 そして、小さい声で呟いた桃。


「…何で優愛にもそう言われちゃうの…?」


 泣き始める桃。優愛もって事はこうちゃんも同じ事を言ったのかな。  


「優愛、私。関係なくないよ…」


 袖であふれる涙を拭く桃の言葉に、
 反応する私。すると、桃の口から
 とんでもない言葉が聞こえた。


「私…こうちゃんが好きなの。だから、優愛こうちゃんを捕らないで…」


 桃の言葉がなぜか心に響いた。
 桃の好きな人、中川先輩じゃなくてこうちゃんだったんだ…。
 私は決してこうちゃんを、好きになってはいけないのだと心でそう感じた。

 夕日が沈み、二人は
 暗闇の中、自分の事を考えていた。
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