どうしても君がいい。
早苗は彼氏の迎えが来て、先に帰ってしまった。
『今日の夜、メールで相談してみようかな』
机の中の荷物を鞄にしまいながら、また無意識に考えてしまう。
このまま、悩んでも答えは出ない。
今は恋愛感情を蓮には抱いていない。
ただ、断るにも今後の付き合いもある訳で。
蓮のあの自信に満ちた顔を思い出すと、何かざわつく気持ちになるのも。
きっと、断ってしまえばなくなるだろう。
「織田。なに百面相してんの」
背後から、いきなり声を掛けられて慌てて振り向く。
「び…っくりした。真一か。驚かせないでよ」
隣の席の真一だった。
「いや、器用に色々な顔すんなーって思って」
ちょっとからかうような口調。
真一とは高校に入学してから。
席が隣で何かと話す機会も多い方だ。
中学時代はサッカーをしてたとかで、いかにも爽やかな高校生。
亜美をたまにからかって遊ぶのが楽しいらしい。
「色々あんの。っていうか、いつもバイトで早く帰るのに、まだ居るとか珍しいね」
鞄に荷物を詰め終わり、席を立つ。
教室には、もう僅かしか生徒は残っていなかった。