どうしても君がいい。
亜美の問い掛けに蓮は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「…全部、好き」
その笑みを合図のように、唇が重なる。
唇同士が軽く触れ合うだけ。
蓮の唇が、少し震えている気がした。
触れ合うだけで、すぐに離れていく。
なぜだか、その体温が離れていく感覚に寂しく感じてしまう。
「答えになってないよ」
「だって、全部好きだから」
いくら周りに人がいないとはいえ、住宅街の道路でキスしてしまった。
しかも、付き合ってもいない相手と。
唇に残る蓮の温かさと、その事実に亜美は羞恥に更に足を早めて歩く。
蓮はどこか嬉しそうに、やはり後ろを着いていく。
――信じて、裏切られるのは…嫌だ。
また、苦い経験が蘇る。
蓮が亜美に近付けば近付くほど。
底に追いやっていた記憶の蓋が開きそうになる。