どうしても君がいい。

蓮の部屋は六畳ほど。
シングルベッドに学習机。
タンスは一つだけ。窓のカーテンレールにはハンガーに吊された学ランが掛けられている。
雑誌や漫画でぎゅうぎゅうの棚に入り切らない物が、床に転がったままだ。

「それじゃあ、先週の続きからでいい?」

用意されたOAチェアに腰掛けながら、やはり淡々と進めていく。

「…続きから?」

先程までの、身体に似つかわしくない笑顔は消え、蓮は真顔で亜美の横顔を見つめる。

「そう。数学は特に苦手意識があるみたいだから、しっかり復習しながらしていくね」

「………違うよ」

意識的になのか、無意識になのか。
蓮の声は一際低く聞こえた。

中学生三年生。
だけど、身体は高校一年の亜美よりも大人びている。
声変わりも終えた彼の声は、どことなく掠れて聞こえて、亜美を困らせた。

今日こそは、自分のペースを守るんだ。
言い聞かせながら、蓮の視線に気付かぬ振りで教科書を開いていく。

コンコン、とドアをノックしながら蓮の母親がティーカップに入った紅茶をトレーに乗せ入ってきた。

…助かった。
亜美は蓮に悟られないように安堵の息を小さく漏らす。
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