桜の記憶 短編
あなたと時々喧嘩したときはいつも原田さんや近藤さんが話を聞いてくれたね。

「なんだ、朝霧。元気ねえな。また喧嘩でもしたか?」

「うん・・・・」

原田さんはいつも私の元気がないときに気づいてくれた。

原田さんに話すと自然と心がすっきりとした。

そして原田さんは私のことを妹のようだと言ってよく頭を撫でてくれた。

そんな原田さんは一度だけ私の前で泣いたことがあった。

池田屋事件の時だ。

自分が駆けつけてもなにもできなかったのが悔しい、と。

そんな原田さんを私はただ傍で黙って支えていた。

言葉なんてかけたらうわべだけになってしまいそうで。

今も原田さんは自分が無力だと泣くことがあるのだろうか?

私は黙って目をつぶり思い返す。

だけど、やはりわからない。

ただ一つわかることは、もうそばで支えることはできないということだけだ。

私はゆっくりと歩き出す。

よくこうして近藤さんと歩いたものだ。

「元気がないときは歩くのが一番いいんだよ?」

「はいっ!」

近藤さんはいつでも笑顔を絶やさない人だった。

だからこそ、あれだけの人に慕われたのだろう。

私も慕っていた。

もう一度あの微笑みを見ることはもうできない。
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