Purewhite Devil
薫君の顔が近付いてきて、今度こそ本当にキスされると思った。


だけど私は拒む様に顔を俯かせた。



「私っ――今望先輩と付き合ってるからッッだ、から――ッッ」



抱きしめられて、好きだと伝えたくせにキスを拒むなんてきっと変な話だよね。


でも、これが今私が持ち合わせている精一杯の理性だった。



『そうだよな、悪い』



再び薫君の腕の中へすっぽりと収まった私は、そっと耳を彼の胸にくっつけた。


私の心臓と同じくらい早く動いている。


ドキドキしてくれてるって事だよね。


首の後ろに回された手。


安心する。



『なぁ――』

「何?」

『――――』

「薫君?」

『いや――何でもない』



不思議に思いながらも私は深く追及しなかった。


この幸せな時間を壊したくなかったから。


目を瞑り猫の様に頬をすりよせると、薫君はギュッと腕に力を込めた。


匂い、体温、引き締まった体――彼の全てが私を酔わせる。


今だけは貴方への想いだけを胸に宿し、泣いてしまいそうな程の幸せを堪能したい。






< 144 / 343 >

この作品をシェア

pagetop