Purewhite Devil
『俺んち離婚して親父に引き取られたから、六歳の頃から母親には会ってねぇ』

「そうだったんだ――ごめん」

『俺のピアノが上達する度に母親は馬鹿みてぇに喜んでた。でも、その顔を忘れたくなくて今でも弾いてんのかもしんねぇ』



お弁当箱を片付けながら淡々と話をする泉堂君。


だけどどこか辛そうに見えた。



『美味かった、ありがとな』

「う、ううん。私も美味しかった。ありがとうっ」



泉堂君はピアノの前に座り、いつもの様にピアノを弾き始めた。


きっとピアノを弾いてる時だけは、お母さんと繋がっていられる様な気がしているのかもしれない。


お母さんとお父さん、それに兄弟がいることは私にとって当たり前の事だった。


だけどそれって凄く幸せで有難い事なんだと今更実感した。



「兄弟は?」

『いない』

「そうなんだ」



お父さんとは仲良しなのかな?


そこまで聞く勇気はなくて、私は昼休みが終わるまで口を開く事はなく、ずっとピアノの音色を聴いていた。






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