Purewhite Devil
使われていない教室はニスの臭いがこもっていた。


この臭いは嫌いじゃない。


小学生だった頃の事を不思議と思い出した。



『どうぞ』

「あっ、ありがとうございます」



伊集院先輩は慣れた動作で椅子を引いてくれ、私はぎこちなくそこに腰掛けた。


どんな時も品がある人だと思う。



『何か辛い事でもあったの?』

「辛い、事――そうです、ね――」

『僕で良ければ胸を貸そうか?』

「え――?」

『傷付いてる乃愛ちゃんの為に何かしてあげたいんだ。なんて言いながらも、少なからず下心もあるかもしれない』



いたずらっ子の様な可愛い笑みを見せる伊集院先輩。


どうしてこの人は私の事をこんなに優しく包みこんでくれるんだろう。


こうして顔を合わせてちゃんと話しをするのも、数えられるくらいしかないのに――。






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