生ける屍となって
「お嬢さん。」
突然聞こえたその声に私は驚き、辺りを見回すが、暗闇で見えない。
滑らかな優しい男の声。しかし、なぜか背筋にゾクリときた。
私はとっさに、履いているショートパンツの裾を握り締めた。
「誰?どこに居るの?」
闇に声を投げかけた。
「ここだよ。」
グッと右手を握られた。
「キャッ。」
それは大きい大人の手だった。ほっそりと骨張った指。
「ごめん、驚かせちゃって。」
驚きと人肌に触れたことで安心した私の目からは、あまりの恐怖ゆえに一時止まっていた涙が流れ出した。
彼の氷のように冷たい体温に気づかずに。
今思えば、そもそもあんな森の奥に人がいるのはおかしい話だ。
この瞬間に私の運命は決まってしまったも同然だった。