Sweet moment.
タクシーの前までお客さんを見送った後、欠伸をしながら店のドアに立つと、突然ドアが開いた。
―ガンッ
痛くて言葉が出ない。
すねを押さえてうずくまっていると、
「あ、莉沙ごめんね。」
頭の上から高い声が響く。
「いや…大丈夫です。」
と、作り笑顔を浮かべて声のする方を向くと、そこに居たのは店のチーママの百合さんと百合さんの後ろにはお客さんが1人。
「峠さん…」
笑顔を作り、そのお客さんの名前を呼ぶので精一杯。
「莉沙ちゃん、百合絶対わざと。今の。」
峠さんが冗談ぽく笑いながら言う。
「違う!ごめんね〜
痣になっちゃうかな…」
「いや、本当大丈夫です。
それより峠さん、もう帰っちゃうんですか?」
百合さん顔が深刻になり始めた為、慌てて話しを変える。
「うん。明日また来るし。」
「明日も来てくれるんですか?」
「久々会う友達と呑む約束してるから。」
「お待ちしてま〜す。」
峠さんは歳もわりと近く、話しやすいお客さんだ。
軽く冗談混じりな会話を交わし、この日は百合さんと見送った。