シーサイドブルー
「ん?どうした?」

「…別に。何でもない。」



…今、この胸にある想いを言葉にするのが難しい。
それでも彼がこの瞬間に
〝君のためを思って〟
なんてくだらないセリフを吐いたら、私は今こんな気持ちにはならなかっただろう。
安心、信頼、信用…どんな言葉を並べてもどれもしっくりこない。
でも確かに、不思議と落ち着いた想いが私の心を満たしている。



「暇人同士、仲良く話そうよ。
君の話も聞くし、興味があるなら俺の話だってするよ?」

「…興味なんてない。」

「冷たいなぁ…。でもいいけど。俺にも君にも時間は腐るほどあるわけだし。…死ぬほど、って言えばいいかな?」

「…そうね、死ぬほど余ってるわね、時間。」

「あ、俺が死んでるからってー。
でもさ、俺だって結構悩んでるわけよ?
どうしたらこの宙ぶらりん状態から脱することができるかー、とか。」


おどけた表情と声のトーンに一瞬誤魔化されるが、言っている内容自体はそれなりに深刻だ。
それでもその深刻さを私に重く受け取らせないようにしているという心遣いは痛いほど分かる。
…言葉足らずなのは百も承知であえて言えば、彼はきっと優しい人間なのだろう。おそらく、私が出会った人間の中では最も。


「お腹空いたんじゃない?」

「あなたは?」

「空くと思う?」

「いいえ。」

「じゃ、そういうことは訊かないの。
俺だって美味いもん食いたいんだから。」


コツンと軽く、私の頭を打つような仕草をする。
もちろん物理的な痛みは感じないのだけれど、少しだけ何か違った〝痛さ〟を感じた。

< 12 / 44 >

この作品をシェア

pagetop