シーサイドブルー
* * *


結局外に食べに行くことにする。


「海、離れる?」

「離れちゃ困るの?」

「俺、離れられないんだ。なんかこの海から一定の距離から出れない。」

「…なにそれ。」

「そんなの俺が一番訊きたいよ。」


苦笑いを浮かべながらそう言った。
こういう当たり前のことが当たり前ではない事実を突き付けられて初めて、彼が生きた人間ではないことを知る。


「早く帰って来てね?俺一人じゃ寂しいし。」

「ユーレイが何言ってんのよ。」

「ユーレイだから寂しいんじゃん。やっと誰かと話せて嬉しいんだよ。
…多分、君が思っているよりもずっと、ね。」


苦笑いだったはずなのに、いつの間にか柔らかな笑みに変わっている。


「…コンビニ、行ってくる。」


寂しい、なんて言われ慣れてないからどうしたら良いのか全く分からないけれど。
でも嫌ではない。その響きも、その言葉の意味も。


後ろを振り返れない。彼の表情なんて見なくたって多分分かる。


「ありがと。行ってらっしゃい。」


彼の声は笑っていた。今まで以上にずっと優しく。

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