シーサイドブルー
「俺、上手い聞き役だろ?」

「…うん。」


彼は受け止めてくれた。
私の言葉に耳を傾けてくれた。今も、聞こうとしてくれている。
ただ素直にそのことが嬉しい。


「私の言葉は…誰にも届かなかった。
したいことも夢も色々あるけど、どれも現実的じゃないって。」

「したいこと?」

「色々な国を見たい。色々な人を見たい。文化に触れたい。
一つの場所に留まっていたくなくて、自分の目で何でも確かめたい。
ずっとそんなことを考えてた。
でも、こんなのは現実的じゃない。」

「…確かに。俺は憧れるけど。」


ぽつりと零れた言葉が温かい。
抑えたはずの涙が込み上げてきた。


「小さい頃からずっと言い続けてきたし、その頃は両親だって認めてくれてた。
…多分、子どもだったから。子どもには夢、見させるもんでしょ?」

「そうだね。…大人になると諦めちゃうけど。」

「諦めたく、なかった。
でも、私の言葉なんて誰にも響かなくなった。」


親に言っても否定されて、ただ良い大学に行けばいいとだけ言われる。
だからなのか、もう自分の憧れを口にすることさえ躊躇うようになった。


「…想い続けることが、辛くなった。」


涙が右目から落ちた。こればかりは止められなかった。


「俺が生きてたら、肩でも胸でも貸してあげたんだけどな。
…ごめんね。今の俺じゃ涙も拭ってあげられない。」


私は顔を横に振った。
その言葉だけで充分だ。彼の言葉は私の涙を拭う。

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