海坊主
その男は、カズノリと名乗った。
「和紀って言いマス。海里の、腐れ縁かな」
優しい感じの和紀さん。
「あいつチキンだからさ、君に何も言わなかったんだね」
めぐちゃん?と尋ねてきた。
「愛流で、大丈夫です」
「可愛い名前だね」
優しい笑顔が印象的だった。
「瀧海里。あいつの名前ね?こっから近い私立の大学じゃなくて、3駅くらい向こうの私立に通ってる。あ、僕もね?」
3駅っていうと、結構遠い町だ。
あたしの地元に比べれば、近いけど。
「海里の家ね、金持ちなんだ。会社とか、ビルとか。いっぱい持ってる。このマンションも、その内の1つ」
やっぱり。
海里は、金持ちだったんだ。
「でも、あいつ長男でねー。会社、継がなきゃいけねーんだ」
そこからは、あたしには全く分からない話だった。
「瀧グループって、本業はホテル経営なんだよ。で、海里もそれを勉強しなきゃいけない。
最近までは、親も放置してたけど、そろそろ時期じゃないか、って話になったんだよ」
「海里は、継ぐんですか?」
「多分。最初は、社員だけど、将来は会長だろうな。瀧グループの」
なんか、遠く感じた。
海里の存在が、ずっごい遠くに感じた。