白いツバサ

数分後──

少年の目には、広大な草原が映っていた。

門兵に呼び止められることもなく、無事に街の外に出られたのだ。


「ふぅ~~」


大きな溜め息が漏れた。

毎度の事ながら、やはり緊張する。

少年の目には、安堵の色がありありと浮かんでいた。



良く晴れた空。

いくつか浮かんでいた雲も、いつしかどこかに消えていた。

東風に乗って、潮の香りが街道を進む少年の鼻をくすぐる。

少年は、何気なく後ろを振り返った。

高い市壁に囲まれた街。

潮風にさらされた海側の壁は、塩で白く輝いている。

海に迫り出した高い崖の上には城も見えた。


「ジェイド・バイン城……」


少年はつぶやく。


「僕には、無縁のところ……」


自嘲ぎみに笑うと、再び正面を向く。

長い長い街道。

その足場は、次第に悪くなっていく。

大地は湿り、ぬかるみ、街道の上と言えど、足を取られることもある。

歩き始めて数十分後──

少年は、広大な湿原に立っていた。


「よっ、ほっ!」


慣れた足取りで進むと、道沿いにあった大きな岩に飛び乗った。

岩は台の様な形をしており、頂の部分は切り取られたかのように平らになっている。

岩の隣りには、寄り添うようにして大きな木が生えていた。

少年は手にしていた縄を木の枝にかけると、羽織っていたマントを脱いだ。

薄汚れた草色のチュニックと、首から下げた白い羽の首飾りが姿を見せる。

脱いだマントは、無造作に丸めて足元に置く。

そして、平らな岩の上にごろんと横になった。


「ん~~~~!」


大きく背伸びをする。

凝り固まっていた筋肉が、音を立ててほぐれていく。


「……ふぅ~」


息を吐き、空を見上げた。

青い空に、真っ白な雲が流れていくのが見える。

穏やかに晴れた空。

時折、頬をなでる柔らかな風。

このときが、少年にとって癒やしの時間であった。


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