白いツバサ
「う……」
瞬間的に失った視力が徐々に戻ってくる。
炎に照らされた大地の上に、何かが輝やくのが見えた。
少女は、ハッと我に返る。
それは、先ほどまで少女が首から下げていた、白い羽の首飾りだった。
落雷の衝撃で紐が千切れ、地面に落ちたのだろう。
少女は慌てて立ち上がろうと、その手に力を込めた。
「ああうっ!」
その瞬間、襲い来る激痛。
短い悲鳴を上げ、少女は転がるように倒れ込んだ。
左腕が動かない。
吹き飛ばされた衝撃で、骨が折れたのかもしれない。
「うっ……くっ……」
それでも少女は地面を這い、必死にその手を伸ばす。
その手が──
首飾りを掴んだ。
少女に、安堵の表情が浮かぶ。
そして、力を失い再び大地に倒れ込んだ。
荒い息遣いが響く。
「もう……ダメ……」
少女は、弱々しくつぶやいた。
「もう……これ以上は進めない……」
雨は激しさを増し、横たわる少女の体を容赦なく打ちつける。
落雷で燃え盛っていた大木も、今では鎮火しつつあった。
辺りに、再び暗闇が訪れる。
「やっぱり……あなたがいないと……私は何も出来ない……」
闇の中で溢れ出す涙は、豪雨の中に紛れていく。
「私は……私は……」
少女が悲しみに打ちひしがれた──
そのとき、涙ににじむ視界に灯りが見えた。
それは、建物の中でゆらぐ淡い灯りだった。
闇の中に浮かぶ橙色の光は、沈んだ少女の心に活力を与える。
少女は首飾りを握り締めると、ゆっくりと立ち上がった。
そして、動かない腕を押さえ、足を引きずりながら歩き出す。
まるで、その灯りに吸い寄せられるかのように。