白いツバサ
「あ~、裾が泥だらけになっちゃった」
隣で少女の声が響く。
目を向けると、空色のチュニックワンピースの裾は泥で染まっていた。
「この格好で来ると大変ね」
そう言って、裾をつまんでパタパタと払う。
その様子を横目で見る少年。
「ねぇ」
そのとき、不意にこちらを向いた少女と目が合った。
「な……なに?」
「お友達と喧嘩したの?」
「えっ!?」
「だって、その顔……」
そう言って少女は自分の頬に指を当て、顔をしかめる。
(ああ……顔の傷のことを言ってるんだな)
少年は、頬のアザに軽く手を当てた。
「大丈夫、これは違うよ」
「そう……なの?」
「うん!」
心配され、それ以上の追求を避けるため、ワザと明るく振る舞う。
「それに……僕に友達なんていないから」
少年はそう言って、少し自嘲気味に笑った。
真っ当な人間が、裏社会で生きるあの家の者と付き合うわけがない。
「寂しくないの?」
「別に……欲しいとも思わない」
首を傾げる少女に軽く答えると、少年は再び岩の上に寝転んだ。
「1人の方が、気楽でいいしね」
人は弱い。
すぐに他人を裏切り、騙(だま)し、陥(おとしい)れる。
あの家に来てから、嫌というほどそれを見た。
それが人間の本質。
ならば──
どうせ失うものなら、友や仲間など、最初から持たない方がいい。
(どうせコイツだって、僕の素性を知ったら逃げ出すに決まってるんだ……)
少年は空を睨んだ。