白いツバサ
今、まさに2人が交差する、その瞬間──


「そこまで!!」


不意に響く男の声。

その威厳ある声に、2人は足を止め振り返った。

そこには、黒色のマントに身を包んだ2人の男が立っていた。

1人は、筋骨隆々の赤毛の男で、鋭い眼光でこちらを見ている。

もう1人は、赤毛の男より少し背が高い細身の男。

頭には羽付き帽子を深くかぶっており、その表情は伺いしれない。


「そこまでにしておきなさい」


赤毛の男は言う。

どうやら、先ほどの声はこの男のもののようだ。

その体型には似合わない丁寧な言葉遣い。

だが、周囲は一瞬で厳粛な空気に包まれる。

その雰囲気に飲まれ、ファイアリーの口がゆっくり動いた。


「ち、父上……」

「父上!?」


少年は、2人を見比べる。

なるほど、その赤い髪は瓜二つだ。


「お言葉ですが、この少年はアクア様を無理やり押し倒し……」

「僕は、そんなことしてないって言ってるだろ!」

「まだそんな嘘を! 私はずっと見ていたのだぞ!」

「2人とも、落ち着きなさい!」


睨み合いを再開する2人の間に、赤毛の男は割って入る。


「しかし、父上!」

「ファイアリー……」


赤毛の男は、ファイアリーに視線を向けた。


「我々の隣にいたお前が突然走り出した理由は、アクア様が危機に直面したから……ということで相違ないな?」

「はい……遠目からにも、この少年の非道は良く見えていました」


(コイツは……)


少年は、ギリッと奥歯を噛み締める。


「ふむ……」


その様子を眺めながら、羽付き帽子の男はあごに手を当てた。

立派な帽子の、大きなつばの下から覗く端正なあご。

そこには、金色の髭が見える。

その男の口が、ゆっくりと開いた。


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