白いツバサ
「うう……」
「女なんか作って、いいご身分じゃねーか」
「ち、違う! アクアはそんなんじゃない」
「ほう……アクアっていうのか?」
パイロは、視線を背後に向ける。
心配そうにこちらを見ているアクアが、そこにはいた。
「……まぁ、なんでも構わねーが、仕事はしたんだろうな?」
「そ、それは……」
「テメェ……」
パイロは視線を戻すと、おもむろに少年の胸ぐらをつかむ。
「うちには、タダ飯を食わせる余裕はねぇんだ!」
「で、でも……今日はまだ沼に落ちる人がいなくて……」
「馬鹿野郎!」
パイロは、少年に頭突きを食らわせた。
「うあっ!」
額に走る熱い痛み。
それと共に、安い酒の匂いが鼻の奥に突き刺さる。
「よく見やがれ……」
静かに言うパイロ。
少年は痛みをこらえ、その視線の先に目を向けた。
そこには、バーンと羽帽子の男がいる。
「あ、あの2人が何を……」
そこまで言って、少年はハッとした。
「……ようやく気付いたか」
その様子に、パイロは口元をニヤリと歪める。
「見たところ、あの2人は高貴の出の者だ……ああいうヤツらは、色々と溜まってるものなんだ」
「で、でも、それは夜の仕事で……」
「馬鹿野郎!!」
頭ごなしに怒鳴られ、少年は思わず首をすくめた。
「金は、儲けられるときに儲けるんだよ!」
「で、でも……」
アクアには、そんな姿を見せたくない!
その思いが、少年を押し止める。
「チッ……」
煮え切らない少年に、パイロは苛立ちを隠せない。
「……なら、俺が話をつけてきてやる」
そう言うと、胸を激しく突き飛ばした。
「うあっ……!」
よろけた少年は、泥の水溜まりに尻餅をつく。
ぬるぬるとした泥水が、服に染みてくる感覚。
だがそれよりも、これから起こることの方が少年には辛いことだった。