白いツバサ
「ねぇ、ファイアリー……」
そのただならぬ雰囲気に、アクアはファイアリーを見た。
「今から何をする気なの?」
その目には、驚きと戸惑いの色が現れている。
「アクア様……どうやら、あの少年は殴られ屋のようです」
「そ、それって……」
ファイアリーは目を伏せた。
「報酬を貰うかわりに……一方的に殴られることを生業(なりわい)としている者のことです」
「そ、そんな!!」
アクアは少年に目を向ける。
少年は、自らの体を抱くようにして腕を押さえていた。
その姿は、震える体を必死に押さえ込もうとしているかのように見える。
「すぐ止めさせなくちゃ!!」
走り寄ろうとするアクアの前に立ちふさがる影。
それはボルケーノだった。
「お嬢ちゃん、どうする気だい?」
かっぷくの良い体を揺らし、ボルケーノは尋ねる。
アクアは、ボルケーノを真っ直ぐに見詰めた。
「殴られ屋なんて、そんな酷いこと止めさせます!」
「お嬢ちゃんは優しいんだねぇ」
そう言って、ボルケーノは笑う。
「でもね、世の中にはそうでもしないと、生きていけない人もいるんだよ」
「で、でも!!」
「それがわかってるから、赤髪のお嬢ちゃんは何も言わないだろう?」
ボルケーノは、ファイアリーを見た。
「わ、私は……」
不意に話を振られ、ファイアリーは動揺を隠せない。
「で、でも、取り返しのつかない怪我でもしたら……」
「怪我?」
ボルケーノはアクアに向き直ると、笑みを浮かべたまま顔を近付けた。
「そのときは、それまでなんだよ」
笑顔のボルケーノ。
だが、その眼は笑ってはいない。
まるで冷血動物のようなその眼に、アクアは恐怖を覚えるのだった。