白いツバサ
「さぁ、旦那方! 」
パイロの声が響く。
その耳障りな声に、少年の意識は更に現実へと引き戻された。
「無抵抗の人間を、ましてや少年を殴るなど……!」
嫌悪感を露わにするバーン。
それを後目に、羽帽子の男が一歩前に出た。
「面白そうな趣向じゃないか」
大きなつばの下に見える、髭の生えた口元がニヤリと笑う。
「俺がやろう!」
「な……あなたは、何を言っておられるのです!?」
進み出た男に、バーンは唖然とする。
「たまには、こういう余興も良いではないか」
「さすが、旦那はわかっておいでで……」
手揉みするパイロ。
「料金は1発につき、金貨1枚。前払い制となっております」
「抜け目がないな」
「生活がかかっておりますゆえ」
羽帽子の男は、懐から小袋を取り出した。
袋の中に手を入れ金貨を掴むと、パイロの手の上に落とす。
金貨は、手の上で澄んだ音色を立てて踊った。
「ひい、ふう、みい……じゅ、10枚も!?」
その枚数を数えていたパイロが、歓喜の声を上げる。
「不服か?」
「い、いえ、めっそうもございません!」
ペコペコと頭を下げるその姿は、まるでコメツキバッタのようだ。
「それじゃ、旦那様。ここは足場が悪いので、あちらに行きましょうか」
そう言って、男を誘導する。
その先には、もちろん少年が立っていた。
「まったく、あなたという人は……」
去っていく羽帽子の男の背中に、バーンは溜め息を付く。
その声が聞こえたのか、男は振り向かずに右手を軽く上げた。