白いツバサ
「10回……」
少年はつぶやく。
次第に近付いてくる2人。
逃げ出したい気持ちはもちろんあるが、そんなこと出来るわけもない。
ここで逃げたなら、後でパイロに何をされるかわからない。
近付いてくるにつれ、羽帽子の男の体がハッキリと見える。
その細身の体に無駄な肉はなく、その全てが筋肉であることが見て取れた。
「殴られたら痛そうだな……」
少年は、目を細めつぶやいた。
少年の前に立ったパイロは、くるりと身を翻(ひるがえ)す。
「さあ、旦那様! 思う存分やっちまってくだせぇ!」
「うむ」
羽帽子の男は、拳を振り上げた。
筋肉が収縮し、血管が浮かび上がる。
少年が見詰める中、今、その腕は1本の凶器となった。
(でも、僕は目をそらさない……それが僕の抵抗だ!)
「少年……」
不意に、羽帽子の男が口を開く。
「いい目をしているな」
「えっ!?」
「行くぞ!!」
思わず漏れた疑問の声を遮り、男は拳を振り下ろした。
凶器ともいえるその拳はうなりをあげ、無防備な頬に突き刺さる。
「うべっ!?」
変な声を漏らし、激しく吹き飛んでいく。
ぬかるんだ大地を転がる姿は──
少年ではなかった。
「……え?」
拳圧が髪を揺らす中、少年は何が起こったのか理解出来ず立ち尽くす。
殴り飛ばされた姿。
それは、紛れもなくパイロ、その人であった。