甘くて切なくて、愛おしくて
「お母さんとかにはあげなかったんだ」
「お母さんもケーキが苦手みたいで。でも残したくなくて。無理矢理食べたのね。本当にバカよね」
そこまで話したところでビールが運ばれてきた。それを半分くらいまで飲んでから話を続ける。
「あんたバカでしょって怒鳴りつけてやったわ。だってそうでしょ?自分の体に合わない物を、下手すりゃ死ぬかもしれない物を食べるなんて、おかしいもの。でもね彼ってば言ったのよ。君の売っているケーキを、無駄には出来ないって」
あぁ、なんていいひと、なんだろう。そう思ったのと同時に美香子の口からあたしの考えと同じ言葉が出る。
「いいひと、でしょう?本当にお人よしで、バカっていうかなんていうか..」
あたしはそこまで思ってないけれど..
「それから付き合うようになったの。幼かったわ。あたしも彼も、とても幼い恋だった。手を繋いだだけで嬉しくなって。それだけで幸せな気持ちになれたわ。バカみたいよね。でも本当なの。これが本当の恋っていうんだって思えた。だけど」
もう半分ビールを飲み干す。ダンっとジョッキを置いた音が乱暴に聞こえた。
「..一週間後。事故で亡くなったの」