甘くて切なくて、愛おしくて
「そう、なんだ」
「もうね、最初は信じられなかった。全部がね。全部が嘘なんじゃないかって..そう、思って駆けつけた、の。だけど、彼は、本当に..」
「美香子っ、もういいよ、ごめん、あたし」
「本当に、バカな人、だっ..たのっ、でも..ね」
たまらなくなって美香子を抱きしめた。
うるさすぎるくらいの店内。多分今のあたし達の状況に合わないと思う。楽しそうな声が聞こえるのをよそに、あたしはただ美香子をきつく抱きしめた。
強く、強く。
それからすぐにお店を出たあたし達は、夜道をふらふらしながら歩いていた。こんな遅い時間にも関わらず、街には人で溢れている。誰もかれもが急ぎ足で進んでいる。それに逆らうようにあたしと美香子はゆっくり歩いた。
途中小さな公園を見付けると、休みたいという美香子の言葉に頷いて中に入った。そこには誰もいなくて、それが今のあたし達にはちょうど良かった。
「彼はね、今もあたしの中にいるの」