甘くて切なくて、愛おしくて


だから、何なんだよ。こっちはまだ仕事が残ってるっつーのに。
季節は既に冬を迎えている。まだ夕方だというのに廊下も教室も既に暗くて、懐中電灯を持っていないと確認できない。一つ一つの教室を見回りながら、小林先生はバインダーに挟められた用紙にチェックを入れていく。きちんと戸締りされているか。この部屋は安全か。そういう所も最後に確認するのも教師の仕事なの
だ。


「で、何かあったんですか?」



「だから何もないって言ってるじゃないっすか」



少し突き放したような言い方になってしまい、慌てて謝罪を入れた。



「そんな事..言わないでください」


暗闇のせいか、小林先生の顔がよく見えない。だがその声はとても低く、今にも消えてしまいそうだ。彼女の次の言葉を待つ。やがて少しの間沈黙が続き、口を開いた。



「すき..なんです、先生の事が」


ウソだろ、とつい言いそうになった言葉を飲み込む。


「赴任してきた頃から、ずっと好きでした。先生、私じゃ駄目ですか?先生の傍にいるの。私じゃいけないんでしょうか..」



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