甘くて切なくて、愛おしくて
すぐ後ろで聞こえた声に周りにいた人達が一斉に見る。
見られてたんだっていう事よりも、助かった気持ちが
大きくて、体が震える。
「聞いてんかって、耳、ついてんのかよ」
相手を罵倒するような刺のある言い方にその声の主を捜そうとするも、
後ろにいる痴漢が邪魔で顔が見えない。
辛うじて見えたのは紺色のスーツだけ。
「お、俺はしてないっ!誤解だ!」
「へー誤解なんだ。じゃケーサツの前でもそう証明しろよ?」
「な、何を!?」
「俺の友達、ケーサツなんだよ。すぐに電話してやろうか?」
男の人の声が一気に低くなって、痴漢がうろたえてるのが声だけで分かる。
「おい、どうするんだ?」
そう質問したところで、ちょうど電車が止まる。ドアが開いた瞬間痴漢は周囲にいた人
達をかきわけて、逃げるように電車を降りて行ってしまった。