100日愛 [短]
だけどそこには、夾が知りに知り尽くしたものがあった。
手も覚えていたように、彼女の小さい顔を撫でる。
「夾くん…」
「お前……何で…」
夾の言葉に、薫の表情が曇る。
けれどもすぐにパッと明るくなり、いつかのように笑った。
「夾くんに会いたくて…来ちゃった」
それを耳に入れると同時に、薫を抱きしめた。
薫だ……。
本当の、本物の薫。
夢でも思い出でもない薫。
俺の薫が…ここにいる…。
信じがたいことが、その感触でほつれていく。
夾は薫のことも考えず、強く抱きしめた。
「うっ…苦しいよ、夾くん…」
「薫…薫…」
それでも夾は薫に応えず、ただ愛しい名前を呼び感傷に浸る。
「薫、薫、薫っ!」
「もう夾くん、そんなに言わなくても薫はいるよ」
クスリと笑う薫を全身で感じながら、夾は右手を動かす。
頭から滑らせ、うなじ、首、背中…。
100日ぶりの喜び。
「おかえり、…薫」
「…ただいま、夾くん」
夾は唇を押し付ける。