100日愛 [短]
「うぅ…なんか寂しいなぁ」
「……んでそうなんだよ。…っつーか返せ。俺が飲みたくて作ったんだよ」
「ダメ!」
薫はキュッと大事そうにコップを握る。
手の甲に力が入っているのが分かった。
「だって、前まで夾くんはコーヒーなんか作れなかったもん」
「………」
「これは夾くんが作った貴重なコーヒーだよ!…だから、薫が飲むの。これは薫の」
薫が言う通り、夾は以前、コーヒーすら自分で煎れられなかった。
インスタント、という手もあったが、薫はソーサーを使って自分で煎れる派だったので家にはない。
買いに行く気にはなれなかった。
薫が居ないことを実感してしまうのが怖かったから。
「あ…」
押し黙る夾を見て、薫は口を開いた。
マグカップをキッチンに置き、久しぶりにソーサーに手を触れる。
「薫?」
「じゃあ薫が夾くんの分を煎れる」
「は?」
そうして慣れた手つきで、コーヒーを煎れ始めた。