100日愛 [短]
何だかんだで、幻覚でも何でもあいつの声が鼓膜に届くのは嬉しい。
夢を見たあとに、もっと酷く傷つくことが分かっていても。
眠りに堕ちる前に、明日の朝も聞けるかな…と、期待してしまう。
こんなんだから、余計夢を見るんだろうな。
夾は自嘲気味に笑って、ベッドから出た。
誰もいなくなったこの家。
でも、薫がいた時のまま。
何も弄っていない。
現に、左手の薬指には光るものがまだついている。
コーヒーを煎れて、ダイニングテーブルに座った。
カレンダーが目に入る。
赤く囲まれた日付。
それは明後日。
――――あいつが死んでから、もう少しで100日の印……。
カレンダーなんかに記さなくても、絶対忘れないけれど無意識につけていた。
「チョコクッキー……買わなきゃな…」
ボソリと呟いた、あいつの好物。
墓参りの時には必ず供えると決めた。