100日愛 [短]



頬に、何かが当たった。

慌てて離れた途端、薫が顔を手で覆う。

フローリングの床に、ぽとぽとと雫が落ちていく。




何を聞けばいいのか。

何をすればいいのか。




いきなり突き出された戸惑いを、そのまま映すように、夾はそのまま突っ立つ。




抱きしめたら、簡単に粉々になりそうで。

質問をしても、もしいけない何かに触れたら壊れそうで。

手を伸ばそうにも、それは届かない気がして。



一歩でも、一ミリでも動けばその先は茨の道が広がる。



「……っ」



名前を呼びたいけど、何かが詰まって声が出ない。



あの、事故のような感覚。

薫が、離れていってしまうのがどこかで分かってしまったときと同じ。



このままじゃ、二度手間になる。



無理矢理咳ばらいをして、こじ開けるように声を出した。



「かお、るっ…」

「…っ」



返事はなくて、体が反応するだけ。


それでも、夾は薫の名前を呼びつづけてみる。


気が滅入るような頭痛が襲う中で、必死に声を振り絞っていった。




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