100日愛 [短]
「薫…っ、薫…っ」
悲鳴にも似たその声に、薫はゆっくりとこちらへ歩み寄る。
その腕が近づいた時に、夾は強引に引き込んだ。
小さい体をすっぽり収めることはできないが、それでも夾はなんとか隙間を埋めようと抱きしめる。
薫の体は、恐ろしいくらいに震えていた。
「薫…」
名前しか口に出せない―――。
そんな夾の服を掴んで、薫は嗚咽を交えながら口を開けた。
「優しく…しないで」
「え…?…今何て?」
薫の声は、たった数文字しか夾の耳に届かず、それを理解するには足りなさすぎた。
「…と、二日しかないのに…」
薫の言葉は、夾に向けられたものじゃなく、独り言。
夾に聞こえないのも無理はなかった。
わがままな考えが、薫を支配していた。
「これじゃあ、…お別れが余計辛いの…っ」
「薫?何?聞こえねぇよ…」
最後まで、夾がその叫びを掬うことはできなかった。
言葉ではなく、泣き声を漏らしはじめた薫を、落ち着くまで包むだけ。
ふがいなさが、全身を駆けずり回る。
何してんだよ――。
ちゃんと動けよ、泣かせるなよ。
―――しっかりしろよ俺…。
その間、
叶えようのないような劣等感が、夾には降り注いでいた。