100日愛 [短]
「あ、のさ…草間くん」
急にぎこちなさそうな声が聞こえた。
嫌な予感が、スルリと心をくすぐる。
「何?」
飲み干したパックをごみ箱に捨てながら、彼女の目は見ない。
見れない―――分からないけど、見れない。
「すごく、失礼っていうか、迷惑っていうか…そんなことだと思うんだけど聞いていいかな」
「何を?」
「………奥さんのこと」
ピシンッ―――なにかに皹が入った音がして、
一瞬だけ五感が全て奪われた。真っ暗だ。
「……何で?」
鋭くなった声のトーンと眼光がしっかりと彼女を捉える。
デスクの向こうで目を泳がせた彼女だったが、意を消したのか深呼吸をした後、夾と目を合わせた。
時計の音が場の空気を突っ切る。
誰もいないこの状態は、果たして吉と言っていいのか凶と言っていいのかは悩み所だ。