100日愛 [短]
「…草間薫…ううん、旧姓は、八雲薫。そうだよね?」
そうだよね?――それは、質問というよりはむしろ同意を求める付加疑問。
夾は眉間に皺を寄せた。
結婚の報告から、わずか数ヶ月で、彼の最愛の相手がこの世から消え去ってしまったこと。
それは、この部署全員が知悉していた。
しかし、この手の話題は、あっという間に会社全体に流布されてしまうかと思われたが、それは防げた。
皆、一つも笑うことは許されない内容に一人一人が意識していたからだろう。
それと同時に、もちろん彼への配慮も怠らなかった。
仲間内の結婚の話をしないなど、明らかに気を遣うことはなかったが、
薫がどんな女性であったか、結婚式はどうだったのか、
そんな質問はこれまで一度も夾の耳に入っていない。
楽だと言えば楽で、自分がもし他人の立場でもそうすることしかできないのは分かっていた。
だから夾も、不快を感じることはなく、ただ普通に通勤出来ている。
そんな生活が、今日で全て崩れ去っていく音がした。
目の前の同僚は真剣な顔つきで、夾の首が縦に動くことを待ち構えている。