100日愛 [短]
薫のことは誰も聞かないから知らないだけであって、夾自身、別に何も隠しているわけではない。
だが、自分の今の動揺さに驚いているのも確かだった。
―――何故、今になってそれを聞く?―――
薫は昨日俺の元に帰ってきた。
そして、今日のこの質問……。
偶然とは思えないタイミングだった。
「そう…だけど…?」
彼女がどうして、誰も知らないはずの薫の名前を知っているのか。
ましてや、旧姓まで出てくるなんて…以っての外。
明らかに、何かが変わろうとしていた。
薫が居なくなって止まった夾の世界。
それは、色が消え、他人の違いが消え、守るものが消え、生きる目的が消え、生力さえもが消え。
行き場の無くなった愛も、ぷつりとシャボンのように弾けていった。
薫が死んだら、この世界も止まると思っていた。大変な騒ぎになると思っていた。
しかしそれは、夾の世界だけで。
地球が存在している世界は、止まることは疎か大変な騒ぎにもならず。
ニュースで報道されても一日で打ち切られた。
――――こんなの、おかしい。
そう、心から思う。