100日愛 [短]
薫がいなくなっても、世界は何も困らない。
何も変わらない。
何も……知らない。
夾にとってはかけがえのない命だった。
夾にとっての水で、
酸素で、
心臓で、
…生きる道だった。
彼女が居なくなったら、もちろん自分も死ぬと思っていた。
それなのに今こうして風邪も引かず研究をしている。
いきなり突き付けられた本当の現実。
それは、あまりにも残酷で、他人事。
見てはいけなかったかもしれない現実から目を背くようにして過ごしてきた。
そんなことをしても、もちろん変わるはずがない。
分かっていた。
でも、どこかで信じられずにはいられなかった。
そんな今、光も何も見えなかった世界が変わろうとしていた。
「やっぱり…。草間くん、『薫』としか言わなかったから確信は持てなかったんだけど…」
前髪をかきあげて、項垂れるようにため息をついた。
「薫を、知ってるのか…?」
「…うん」
悲しい顔で頷く。
「薫は私の中学生のときの友達なの。…お葬式は行けなくて、告別式だけ参列したんだけど…それも用事があって早く帰っちゃったから。結局、草間くんには会えてない」
「…そうか、告別式は、俺二時間ほど席空けてたから…その時だよな…」