100日愛 [短]
夾は決して絵に興味があったわけではない。
この大学にそんな学科があったことを知っている程度だ。
だからこの絵がどれだけ技術的に上手いのかはわからなかった。
でも素人の夾にとって、この作品は上手いと思えるものだった。
何より……
心を奪われた。
その絵が発する、色に、情景に。
夾にとって、この絵は普通じゃなかった。
何年か経った今でも、それは残っている。
もう一度、掘り返してみよう…。
“現在の夾”は、閉まっているはずの場所を思い浮かべながらそう決めた。
「あ…あの…」
下の方から、オドオドした声が聞こえる。
ノートから目を離して、やっと薫を見た。
サラサラの艶めく黒髪の中にある小さい顔が夾を見つめていた。
「これ…」
「…?」
「お前が書いたの?」
「えっ?」
一瞬キョトンとした薫だったが、夾が持っているノートを見て、何を聞かれているのか気づいた。
慌てて立ち上がり、もう一度夾と視線を合わす。