音コイ

BGB

*斗岳*

「..しかし姫は動かずに
鹿をじっと見つめた。」

部屋に響く綾萌の声と
俺のキーボードを打つ音。


「否、動かなかったのではない。
動けなかったのである。
その鹿の瞳のあまりの純粋さに
姫はそれを見ること以外の動作を
忘れてしまっていたのだ。」


その鹿の瞳のように澄んだ声は
俺の心を苛立たせることなんてなく
そよ風に当たるように
癒された気分にしてくれる。


「「あなたは本当に鹿なの?
その瞳には他の鹿のような
死への恐怖が感じられない。」

そう言うと姫は周りの制止も聞かずに
鹿の近くへと
引き寄せられるように歩いていった。」



今まで人の声は
雑音でしかなかったのに。

綾萌の声にはすごく癒される。


もっと聴きたいと感じてしまう。


殴られた時
常識知らずとか
そりゃそっちだとか思う前に
心でなにかが弾けた。


今思えば一目惚れとは
これだったのかと思うけど
その時は気づきもせずに
ただ抱き締めていて。


俺の心は幸福に満たされていたんだ。














< 23 / 27 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop