この場所で。
カウンター越しに。
「りぃ……なんか怖そうな男の子が呼んでる……」
香水臭い女が莉緒に駆け寄る。
目付き悪い上に無愛想で悪かったな。
こっちに来る莉緒を心配そうに見送る女に視線をやると、女は素早く目を反らした。
「なに、雅人」
俺を怖がる女が面白いのか、それとも怖がられる俺が面白いのか、
にやにやしながら莉緒が来た。
「……カウンター当番」
「あ、ごめん。忘れてたー」
「だろうと思って教室寄ってよかった」
週に一度まわってくるカウンター当番は、図書委員の昼休みの仕事。
本の貸し出しや整理、パソコンのデータ入力……
勝手に決められて最悪だ、なんて思っていたけど、
莉緒がいたから助かった。
同じ学年じゃ図書委員に仲のいい奴はいないし、知り合いは莉緒しかいなかったから……。
「よぉ、雅人。コレお願い〜」
「直樹、お前最近よく本読むよな……そんな奴だったっけ?」
「気分だよ、気分〜」
二学期を少し過ぎた頃、直樹は髪を染め眼鏡をやめて、よく俺とツルむようになった。
元々、同じ中学だったし仲はいい方だったけど、それにしても一緒にいることが多くなった。
美術部にはもう顔を出していないのか、部活に行く様子もなくなった。
「じゃ、学生証貸して」
「ん」
直樹から学生証を受け取り、莉緒にその裏についているバーコードをスキャンしてもらう。
「期限は二週間でぇす」
その事務的なセリフを言うと、莉緒はすぐにパソコンに向かった。
お前の探してるヤツは目の前にいるのに……
なんてことは、教えない。